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技法極め美を追究 イルフ童画館版画展
2024年1月29日
イルフ童画館で、開館25周年を記念した企画展「武井武雄版画展」が開かれている。童画家として広く知られる一方、生涯を通して版画技術を探求した武井に焦点を当てた展示。版画や刊本作品、版木など250点以上を技法ごとに並べ、制作方法から武井の版画の全体像をひもとく。4月7日(日)まで。
1919年に東京美術学校(現東京芸術大学)を卒業して十数年、童画家として活躍していた武井は、当時の印刷技術に限界を感じていた。そこで自分の思い通りに表現でき、複製も可能な版画に目を向け、40歳代から本格的に取り組み始めた。銅版画をはじめ、木版、石版、ステンシルなど、幅広い技法を網羅するうち、絵、彫り、刷りを全て1人で担い、作家の独自性がより発揮される「創作版画」に夢中に。武井が主宰した年賀状交換会「榛(はん)の会」、日本版画協会などで版画家と交流を重ねながら技術を磨き、表現の幅を広げた。
さまざまな版画技法を研究した武井は、新しい版式「バリタイプ」を生み出した。凸版の一種で、インク、本紙の上に紙や糸といった版材を乗せ、当て紙の上からばれんで刷る技法。通常の木版のはっきりとした線ではなく、版材による圧力差でぼんやりとかすみがかった仕上がりになる。刊本作品No20「あいそぽす・ふあぶら」(1952年)はバリタイプと木版を組み合わせ、幻想的な世界観を作り出した。
本展には刷られた作品だけでなく、緻密に彫られた銅版や版木も数多く並び、完成に至るまでの苦労がうかがえる。同館学芸員は「版式の特徴に合わせ、緻密な計算で絵がデザインされている。童画とは全く違う武井の表現が見えてくる」とし、「苦労して作った工程を知り、『すごい、きれい』で終わらないすごみを感じてもらえれば」と話す。
関連イベントとして、2月25日(日)午後1時半から、山岸吉郎館長のトークイベントを開く。聴講無料だが予約が必要。
午前9時〜午後6時。毎週水曜休館。イベントの申し込み、問い合わせは同館(電0266・24・3319)へ。
(写真は、多彩な技法の版画作品が飾られている)