NEWS
幻の「音」150年ぶり復元 神仏習合時代の信仰
2021年12月20日
諏訪大明神を賛嘆するために僧侶が節をつけて唱え、明治初期の廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)で失われて幻となった文章「諏方(すわ)講之式」の固有の音が、約150年ぶりに復元された。仏法紹隆寺(諏訪市四賀桑原)の岩崎宥全住職(43)らが、2年がかりで一部を再生させた。神仏習合の時代に唱えられた地方神社の信仰の「音」をよみがえらせる試みは、全国でも初めてという。19日に同寺で会見を開き、発表した。
「諏方講之式」は、全体の趣旨を伝える表白と五つの讃で構成される。神仏分離以後は途絶え、音符も失われた。ただ、文章を知る手掛かりとして「桃井(もものい)本」と「大祝(おおほうり)本」が確認されていた。
復元には、「諏訪史料叢書(そうしょ)」(同刊行会1928年発刊)に全文が掲載された「桃井本」を元にした。1674(延宝2)年に「諏方講之式」を書写したもので、諏訪大社下社五官の一つ、禰宜太夫(ねぎだゆう)の桃井家が所持したとみられる。
「音」を復活させたのは、このうち上社に触れた第1讃。諏訪神社上社の垂迹(すいじゃく)神は武運長久を祈るこの世に類をみない天下第一の軍神である、あらゆる神の中で諏訪明神の霊験は最も勝り、深い—などと神徳を並べ、「諏訪大明神画詞」の内容も表れている。経文を諏訪市教育委員会の嶋田彩乃学芸員が書き下し、信州大学の渡邉匡一教授が監修、今春までに作業を終えた。
全く残っていなかった音符の復元に当たって、岩崎住職は全国各地の神社の「講式」に影響を与えた高野山の「明神講式」の音階を参考にした。全体では淡々としたものだが、終盤になって盛り上がる構成になっている。仏教音楽「声明(しょうみょう)」に詳しい種智院大学の潮弘憲教授の監修を受け、「諏訪講之式」の伝承者としても認められた。
渡邉教授によると、諏訪大社が江戸幕府に提出した文書には、7月26日に毎年行う下社御射山の祭りでこの講式を奉じた記録があり、「江戸時代以前から使われていた可能性が高い」とする。
岩崎住職は「かつての人々が耳にしていたであろう音が復元できたことは感慨深い。今後の神社や寺にとっても、意義あること。与えられた使命が果たせた」と、胸をなで下ろす。復元作業は今後も続ける意向だ。
(写真は、復元で音符のついた諏方講之式の「楽譜」を披露する岩崎住職)