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息子に宛てた手紙 一冊に 95歳の片倉みどりさん出版
2024年8月29日
コロナ禍で移動が自粛されていた2021年に、岡谷市川岸上の片倉みどりさん(95)が戦前の幼少期から戦後の激動期の記憶などをつづり、愛知大学地域政策学部特任准教授として豊橋市に住む長男の和人さん(69)に送った手紙などが、「九十五歳 みどりさんの綴(つづ)り方 わたしを育てた岡谷のひとびと」と題した1冊の本になった。
みどりさんが和人さんに手紙を送るようになった切っかけは、20年に死去した夫の万吉さんの一周忌に移動自粛で和人さんが岡谷に帰郷できなかったこと。耳が遠いみどりさんとは電話での会話が困難で、「最初は安否確認も兼ねて手紙でのやりとりを始めた」(和人さん)という。
和人さんは、07年に当時の勤務先だった農村工学研究所(現国立研究開発法人農研機構農村工学研究部門)を退職し岡谷に帰郷後、現在も代表理事を務めるNPO法人「農と人とくらし研究センター」を設立。戦後の高度経済成長下で進められた農村の生活改善普及事業の功罪を研究テーマに掲げた。みどりさんとの手紙のやりとりの中で、「母の半生も研究の対象になり得ることに気付き、子どもの頃にさかのぼって、携わった仕事の経験と暮らしの中で身に付けた技の数々を思い出して、手紙に書き留めてほしいと頼んだ」という。
みどりさんからの手紙は21年2月から9月までに50通を超え、3歳で実母を亡くし祖母に育てられたことや、戦時中の女学校での学徒動員、万吉さんとの結婚後のこと、万吉さんが反対運動の先頭に立った諏塩トンネル(塩嶺トンネル)問題などがつづられた。
著書には、編集者の手で読みやすくまとめられた手紙と共に、64歳から始めて総数500首を超える短歌の中から30首、70歳の時に書いた自分史「年輪」の中から、1995年に受けた脳腫瘍の手術で入院した時の記録を「病床日記」として収録した。巻頭に「母から届いた手紙」、巻末に「あとがきにかえて コロナ禍での母との文通」と題して、和人さんが思いを寄せている。
みどりさんは「昔のことをよく覚えていたので、(手紙には)話したいことを書いた」と話し、出来上がった著作に「こんな本になるとは思わなかったので、うれしい」と笑顔を見せている。
「九十五歳 みどりさんの綴り方」は四六判192ページ。和人さんのつながりで、東京都板橋区の出版社「ナナルイ」から9月2日(月)に刊行される。岡谷市塚間町の笠原書店は出版を記念して、14日(土)午後3時から笠原書店本店で片倉さん親子らのトークショーを開く。入場無料で要事前申し込み。問い合わせを含め同書店(電0266・23・5070)へ。
(写真は、著書を手にするみどりさん)