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片倉の蚕品種「太平長安」で着物を 宮坂製糸所が繰糸の工程担う

2023年7月28日

うえぶ着物
 川岸村(現岡谷市川岸)で創業し、日本最大の製糸会社として名をはせた片倉製糸紡績(現片倉工業)が開発した蚕品種「太平長安」を復活させ、着物の仕立てまでを行う事業を東京都内の企業が立ち上げた。このうち繰糸の工程は、国内に数軒のみとなった製糸工場で唯一、手繰りを続ける岡谷市郷田1の宮坂製糸所が担う。同社の髙橋耕一社長は「岡谷にゆかりがある片倉の繭。国産が少なくなる中、養蚕から着る人までのつながりをつくっていただけることは、ありがたい」と感謝の気持ちを胸に作業を進める。
 蚕糸科学技術研究所(茨城県)の研究などによると、「太平長安」は戦時中、パラシュート用に開発された品種で、細く丈夫で張りがある糸になるのが特徴。一般的な生糸の7割ほどの細さで、繊細な柄の表現や腰のある帯作りに適しているという。1949年春の全国利用率は43.2%だったが、次第に収穫量が多い新品種の需要が高まり、80年ころには10%を割り込んで実用としての役割を終えた。
 その後は、同研究所で維持保存されるのみだったが、着物販売仲介業などの日本和装ホールディングス(HD、本社・東京都)が「養蚕支援事業」として復活を構想。研究所に保存されていた蚕を増やし、5月に約4万頭の卵をふ化。駒ケ根市の養蚕農家が飼育し、繭60キロほどを収穫した。
 宮坂製糸所とは、もともと取引先だった縁もあって繰糸を依頼。同事業では約1年かけて着物の仕立てまで全ての工程を国内で完結させ、「伝統技術や文化の継承をしていく」(日本和装HD)。
 27日には同社の道面義雄社長(36)が宮坂製糸所を訪れ、諏訪式繰糸機で糸取りを体験した。髙橋社長らに教わり、繊細な作業に苦労しながら取り組んだ。事業は来年度以降も続けていく計画といい、「大変な工程を踏んでいる伝統技術で、お客さまや生産者に伝えたいと強く思う。一時的な盛り上がりではなく、細く長く継続していきたい」と思いを話した。
 約10キロの生糸が取れる見込みで、糸や白生地を着物メーカーなどに卸す。来年2月ころに仕立て上がり、販売する予定。
(写真は、糸繰りを体験する道面社長=左)